カウント・ダウン
瞬間、彼の顔が歪んだ。
投げつけた言葉はまだ彼の横顔あたりに漂っている。
─もういいっ
陳腐な捨てセリフを投げつけて、振り向かないように車を降り、後ろ手にドアを勢いよく閉めた。
バタン!
静かな住宅街の闇にことの他響いて少し戸惑う。
振り向くもんか。
真っ直ぐ前を向いてマンションのエントランスに向かう。
振り向いてやるもんか。
なのに、オートロックの解除に手間取る振りをしてガラスのドアに映るシルバーの車に目をこらし、彼の表情を探してしまう。
彼はコチラを向いていない。
ハンドルに手をかけたまま、疲れた横顔が僅かな街灯に浮き上がっていた。
ヒリヒリした気持ちを抱えたまま逃げるようにエレベーターに飛び乗った。