LOVEPAIN⑤
撮影後、
私はすぐにその部屋を出た
まるで、逃げ出すみたい
成瀬が私を迎えに来るよりも、先に
「広子?」
控え室に使っていた部屋の前
私を迎えに来ようとしていた、
成瀬が立って居た
「成瀬さん。
早く帰りましょうよ」
成瀬に駆け寄り、
スーツの上着を両手で掴んで、
私は泣いていた
「広子…」
目眩がして来て、
視界がぐらんぐらんと揺れている
成瀬の私の名を呼ぶ声も、
近いのに遠く聞こえる
「もう、嫌だ…」
スーツを掴む手に、
さらに力が入る
息が苦しくなって来て、
慌てて息を止める
また過呼吸の症状に襲われそうになる
前ならば、こんな時成瀬は私を抱き締めてくれたのだけど、
今はそうはしてくれない
今の成瀬には、
大切な彼女が居るから
それを恨んだり腹が立つような気持ちはないけど、
それに気付いて余計に悲しくなった