LOVEPAIN⑤



撮影後、

私はすぐにその部屋を出た


まるで、逃げ出すみたい



成瀬が私を迎えに来るよりも、先に




「広子?」


控え室に使っていた部屋の前


私を迎えに来ようとしていた、

成瀬が立って居た




「成瀬さん。
早く帰りましょうよ」


成瀬に駆け寄り、

スーツの上着を両手で掴んで、

私は泣いていた




「広子…」




目眩がして来て、

視界がぐらんぐらんと揺れている



成瀬の私の名を呼ぶ声も、

近いのに遠く聞こえる





「もう、嫌だ…」


スーツを掴む手に、
さらに力が入る



息が苦しくなって来て、
慌てて息を止める



また過呼吸の症状に襲われそうになる





前ならば、こんな時成瀬は私を抱き締めてくれたのだけど、

今はそうはしてくれない



今の成瀬には、
大切な彼女が居るから



それを恨んだり腹が立つような気持ちはないけど、

それに気付いて余計に悲しくなった


< 628 / 641 >

この作品をシェア

pagetop