私は彼に愛されているらしい
言える?あんな小さなこと私に言える?

だってたかが呼び方でしょ?

言葉遣いだってたまに敬語っぽいのが入ってくるだけでいつもって訳じゃないもんね。

気にしすぎって言われて終わっちゃうパターンじゃないの?

私さえ我慢すれば、それでいいんじゃないの?

「みちるさん。」

そう呼んでくれるアカツキくんの声は耳に心地いい、それでいいじゃない。

もしその呼び方をアカツキくんが気に入ってるんだったら申し訳ないじゃない。

だから、ほら、こんな小さなこと忘れてしまえばいい。

そう心の中で結論付けて震える息を大き目に吐いた。

いつの間にか閉じていた目をゆっくりと開ければ視界に入るのは食後のコーヒーが並んだテーブル。

そして。

「あー。やっぱり行けってことかー。」

空っぽの伝票入れ。

無言で行けと言ってくるようにその透明な筒は強い存在感を示している。

佳代の作戦って本当に強引だ!

「ああ、もう!行けばいいんでしょ、行けば!」

そう言って私も立ち上がり、力強く歩きながらお店をあとにした。

ぶっつけで行こう、連絡なんかしたら変な緊張が私を駄目にしそうな気がする。

アカツキくんには悪いけど勢いでいかないとすぐに失速しそうなんだ。

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