私は彼に愛されているらしい
なんだそれ、無茶すぎるだろうが。

おいコラ新人が先輩を使ってんじゃねえよ。先輩、あなた暇人でしょうが。会議設定なんざ自分でやるもんだろう。

見れば見る程に雑な扱われようが分かって正直清水さんには同情した。使われている都合のいい存在、そんな風にも見えて不憫だなとも思えた。

でもそんな印象を覆す出来事があったんだ。

いつもの様に清水さんの席には人が寄ってくる、彼女は今日も忙しそうだなと観察していた。

「清水さん、これ急ぎで出力してファイルしてください。部位ごとに分けて、タグも作って。あ、ラベルは…。」

おいおい新人、少し職場に慣れて調子に乗っていないか。明らかにその態度は清水さんを軽視したもので関係のないこっちも不愉快な気分になった。

女の仕事だろう、そんな思いが態度にありありと表れている。

流石に遣り過ぎだ、これじゃあこの先が思いやられると後で注意しようと奴を睨んだ時だった。

「ねえ、私これだけの仕事を抱えてんの。」

そう言って清水さんは新人の目前にリストを突き出し見せつけた。口調は…怒ってはいなかったと思う。

「番号は優先順位ね?横の名前は依頼者。日付は期限。急ぎならこの人たちに断りを入れてきてくれる?僕のは急ぎなんで清水さんに仕事お願いしてもいいですかって。」

清水さんは笑ってない、でも怒ってもない。仕事の話をするように淡々と説明をしている感じだ。それに対して新人は、うん、固まってるな。

「他の女の子にお願いしても締切前でみんな忙しいと思うのよ。いい機会だし、そろそろ自分でやってみたら?そうしたら誰がどんな設計をしているのか分かるし、図面の美しさに拘っているところが見えてくるから。まだよく分かってないんでしょ?」

嘘だろ、言った。

俺が口を開けて固まったように、この会話を聞いていた人間は少なからず動きを止めて固まったらしい。それは皆が頭を抱えていたことで、今の若い奴にはどういう言い方をすれば伝わるのか考えていたところだったのだ。

それをあっさりこんなところで言っちゃうのか清水さん!

「ごめんね?今回はお断りしまーす。はい、頑張って!」

にこやかに手を振ると清水さんは新人の手の上に新作のチョコレート菓子を乗せた。

< 19 / 138 >

この作品をシェア

pagetop