私は彼に愛されているらしい
「あ、新作。」

「そうそう!売店で見付けて買っちゃったのよ。さすが新作チェックしてるなんてセンスあるね。」

君なら分かってくれると思ったと清水さんが笑う、新人の表情も少し強張りがゆるんだように見えた。

「あげる。君のセンスが活かせる拘り、見つかるといいね。」

そう言われると新人は恥ずかしそうに笑ってチョコレートの箱を開けた、中から1つ取り出して清水さんの前に差し出す。

「おすそ分け。ありがとうございます、いただきます。」

新人はそのまま席に戻って清水さんに押し付けるつもりだった仕事に取り掛かり始めた。

嘘だろ、意外過ぎる。あんなんでいいのか?直球で言って持ち上げるフォローを入れただけだぞ、そんなんでいいのか?

「やるね、みちるちゃん。新人いびりか?」

中堅どころの設計士が清水さんに近付いて彼女の両肩に手を乗せた。あんなことする人だったっけ、明らかにあれはセクハラだろうと俺は今度こそハラハラした。

職場で女性の体に触るとか俺にはとても真似できないっつーかしたくもない。

「おっ!片桐さん、私守りましたよ。片桐さんの仕事が第1優先ですからね、頑張ります!」

「当たり前じゃん、どんだけ前から予約したと思ってんの。」

「あはは、お仕事ありがとうございます。」

にこやかな会話をしたあと片桐さんは普通の顔して肩から手を離し去って行った。清水さんの様子からして今のを嫌がっている気配はない、なんだ、触られても大丈夫な人なのか?

いやいや、俺が話しかけた時はさりげなく椅子を後ろに引いて距離を保ったのも知っている。上等手段として大きなファイルを抱いて、それで相手との距離を作っているのも見たことがあった。

「片桐、今のセクハラだぞ。」

案の定チーフから声が上がった。

「えっ、マジで?ヤバイ、俺訴えられる?」

「裁判だ裁判。嫁を巻き込んで訴えてやれ、清水さん。」

「あはは。売店のお菓子で許してあげます。」

安いな!いろんなところから突っ込みの声が上がって清水さんは楽しそうに笑った。俺も思わず突っ込んでしまった組だが、彼女は何も気にさせずにニコニコと笑って仕事に取り掛かる。

片桐さんが申し訳なさそうにお菓子を持っていくと律儀だと大笑いして受け取っていた。

その姿に2人の仲がいいのは窺えたが、さすがの片桐さんも心配だったのか安心した様子で仕事に戻っていくのを見ると羽目をはずしたと反省しているのだろう。

相手に気を遣わせない対応をした清水さんにますます興味を持った。

それと同時に、男慣れしてるんだろうな、という印象も持った。
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