私は彼に愛されているらしい
愛しているらしい
男慣れしてそう。そう思った理由は簡単だ、清水さんは上手い具合にかわしていたから。

食事を誘う流れになりそうなら途中で切る。

2人でどこかへ出かけようという流れになりそうなら途中で切る。

最後まで男側の思いを言わせてくれずに話を切り上げる技術が半端なく上手い。

「お前また撃沈?」

「うるせーな。」

清水さんを狙う男たちの会話が時折耳に入ってくるがどいつも上手くいかない報告ばかりだった。

「魔性だよ、魔性。」

そう言って不貞腐れる奴も少なくはない。俺だってそうだ、そう感じることはたまにあった。

やっぱり仕事で煮詰まった時、CADにいても埒が明かないと思った俺は気持ちを変えて自席で唸ることにしたのだ。

「うーん。」

机の上に広げた図面と睨み合いが続く。物言わぬ相手との対戦は本当に心が折れそうになるのだ。

「うー…。」

ついに頭を抱えて額を机の上に押しあてた。ゴンっといい音がしたが脳内に響く痛みも今はどうでもいい。

どうしようかこの案件。どの寸法を変えればいいんだ、形を変えるべきか、そんなことをしたらイチからやり直しになる。関わってきた部署全部に説明参りをしなければいけない時間もない。

駄目だ、手詰まりか。

でも何か方法がー…。

「竹内くん。」

頭上からかかった声に顔の中心に集まっていた嫌な力が抜けていくのが分かった。

「竹内くん、お土産です。」

< 21 / 138 >

この作品をシェア

pagetop