私は彼に愛されているらしい
そろそろ自分の将来を考えて本気で相手を見つめる時期の筈だ。少なくともそうした人だと思ってた。それがこんな軽い奴だったなんて…そんな女に振り回されていたのかと思うと自分にも腹が立った。

何やってんだよ、俺。

「楽しそうでしたね、清水さん。」

だから俺は不機嫌オーラ全開で向かっていったんだ。いい加減にフラフラしてんじゃねえよ。

「あんた、一体いくつだ。」

それが誤解だってことは、その日の内に全て分かった。

魔性なんかじゃない、小悪魔なんかでもない。あの人は鈍感な上に八方美人な面倒くさい人なんだって。

でも普通は手を握れば意識するだろう。
ましてや腰に手を添えられれば嫌でも意識するだろう。

なのに彼女は何の反応も示してくれない。

ところが、俺が落ち込んだ清水さんを励まそうと彼女の頭を撫でた時だった。急に体を固くして視線を泳がし、心なしか顔が赤くなっている気がする。

それってつまり意識した態度ってことだよな。どれだ?車内、密室、慰め、イヤどれもピンとこないな。じゃあ何だろう…。

あ、分かった。

俺の手だ。

「おー。えー?これか。」

分かった瞬間、達成感に包まれて思わず考えなしに口から言葉が出てきた。だってそれ位に感動したんだ。

清水さんは頭を触れられることに弱かったんだと。

「やっと俺のこと意識しましたね?」

「いっ!?」

見事な反応だ、俺は大満足だぞ。来た来た待ってました。

俺は知ってる。鈍感な人は人の気持ちに気が付かない分、気が付いて意識した時はその人に集中してしまうものだということを。

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