私は彼に愛されているらしい
目の前のカレーを見つめてスプーンを握りしめたまま、私はまた口をへの字にして黙り込んだ。

視界の中で舞さんと有紗が顔を合わせて首を傾げているのが見えたが今は放置する。

別にさ、隠さなきゃいけないことでもないのよね。ていうか何で隠すのかも分かんないよね。なのにモヤモヤするのは何が原因なんだろう。

「あー。もう!訳分かんない!」

つい昨日の出来事、でもずっと前から振り回されっぱなしな気もして頭ん中ごちゃごちゃする。一体何だっていうのよ、本当に勘弁してほしい。

「…好きだって言われたんです。」

重たい口を開いたその瞬間、見事なタイミングで2人は体を引きながら大きく口を開けた。一応は驚いたんだな。

「…で、その。キスも…されました。」

「おー!おーほほほほ。」

「うっそ!やだ、本当ですか!?」

流石にその話題は二人の沸点を突き破ったらしい。舞さんは驚きの声を上げた流れで何故か嬉しそうに笑い始めたし、有紗は恥ずかしそうな素振りを見せながらもガンガン前のめりで掘り下げようとしている。

「マジ、です。」

「きゃー!!!!」

一応ここが食堂であるということを心得ている二人は興奮をそのままに小声で体をジタバタさせながら盛り上がってた。うん、分かるよ。私がそっち側なら同じ反応をする。

でも控えたとはいえちょっと目立っているかな、頼むから落ち着いてほしい。

「で?なんでその流れになったの?」

ですよね、そう来ますよね。なんせ昨日まで私から竹内くんの話題が出ることは一切無かった筈だもの。話題数のトップはこの前セクハラ疑惑でお菓子を奢ってくれた片桐さんだ。

そう、セクハラがきっかけだった。

「他部署の課長に食事を誘われて、了承に近い返事をしてしまったんです。それを竹内くんが見ていたようで怒られました。」

「俺を見ろって!?」

舞さん、んな訳ないでしょうが。とりあえず視線でそれを否定しながら私は続けることにした。

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