私は彼に愛されているらしい
恋人には自分の職場まで干渉されたくないと、意外な強さを持っていたのだ。

仕事は仕事、恋愛は恋愛。ちゃんと分けて考えている有紗はきっと、仕事と私どっちが大切なの?なんて王道な台詞は一生吐かないのだろう。私もきっと言わないな。

「よく分からないんですけど、進展があったらまた教えてくださいね!」

愛らしい笑顔を振りまいて私たちはそれぞれの席に着き仕事モードに切り替えた。

でも残念ながらお昼休憩のときも特に報告することはなく。

「清水さん、この手書きの資料をデータに起こしといて。」

「すみません、図面の修正お願いします。」

「次の繁盛期の予約~。ここの間は片桐優先にしといてね。あと予定表出しといて。」

次々と舞い込んでくる依頼に私の机はどんどん山盛りになっていった。

急ぎの仕事はこれといってない、今日の残業が絶対だというものが無くてホッとした自分がいるのも変な感じだ。やっぱり楽しみにしているのかな、自分の心に問いかけては首を傾げるの繰り返し。

時刻は16時半。

定時まであと1時間か。残りの時間で捌ける仕事に手を付けようとCAD端末で気合を入れた時だった。

「清水さーん。」

チーフが私の上司の横に立ち手を振っている。

「はい。」

すぐに手を挙げて返事をし、やることリストを手にして急ぎ足で向かった。チーフが上司と居て声をかける時は依頼の話しかない、自分のスケジュールをしっかり把握していないと相手に迷惑がかかるからだ。

私のポジションは特別で、チームに属さずに上司である室長の直轄に位置している。それはどのチームにもサポートで入れるようにとフリーメンバーとして扱われているからだ。

チーフは竹内くんのチームをまとめているけど、一体誰からなのだろうか。また片桐さんかな。

「お待たせしました。」

「いやいや、忙しいところにゴメンね。」

そう言ってチーフが爽やかな笑顔をくれる。ハッキリとした物言い、まっすぐ向けられる視線に彼は出来る男なのだと改めて感じさせる。

雰囲気で伝わる何かってあるよね。

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