私は彼に愛されているらしい
「ちょっと先方の希望で急きょ図面変更が入っちゃってね。面倒なことに月曜朝イチで提出なんだよ。それで作業のヘルプに入って欲しくて…今は手一杯かな?」

チーフの視線は私が左手で抱えたバインダーに挟まれているリストに向けられる。

時刻は16時半。

月曜朝イチということは今日の残業は確定か、どうしようかな。

少し悩んでしまった私はリストを見ることもなく視線を落として黙っていた。時間はほんの数秒だったと思うけど、いつもの私からすると十分に何かあるのだと思わせる様子だったろう。

「…金曜日だもんね、何か予定があった?」

室長が申し訳なさそうに下から様子を窺った。視界に室長の姿が入って私は背筋を伸ばす。

駄目だ駄目だ、社会人が何を言っているのよ。

「いえ、問題ありません。今日中ですね?」

「ありがとう!清水さんならそう言ってもらえると思ってたよ。助かる!」

「ふふ。任せて頂けて光栄です。すぐに取り掛かるので詳細を教えて頂けますか?」

「ああ、勿論。でも…少しそれを見せてくれる?」

チーフは私が抱えているリストを指して優しい笑顔を見せた。私に負荷がかからないか確認しようとしているのだろう、そういったことに配慮や優しさを感じて少しくすぐったかった。

「はい。どうぞ。」

チーフの方に向けて両手で差し出すと室長も興味深げにリストを覗き込む。

「おー!結構入ってるね。」

「負荷が高くない?大丈夫?」

驚きの声を上げたチーフに続いて労わるような室長の言葉が続いた。正直なところ、今日提出の仕事がないだけで依頼はかなり抱えている状態だ。

「お陰様で人気者です。期待に応えられるよう頑張りますよ!」

小さな拳を掲げて私はやる気の態度を2人に示す。意外な言葉だったのか途端に目を細めて笑う2人を見て私は気分が良くなった。

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