私は彼に愛されているらしい
「室長、片桐の名前が連なってます。」

「本当だ。…この”オレ”って誰?」

「片桐さんです。」

増えていく片桐さんの予約と直近の仕事を書き込む内に、面白いことを思いついた片桐さんが私からペンを奪って依頼者欄に書いたものだった。

「何だ、あいつは。彼氏か。」

「これは由々しき事態だな。」

「清水さん、本当にあいつ訴えていいからね?」

じとりと軽蔑するような眼差しを送られ、遠くにいた片桐さんも流石に異変を察知して立ち上がる。自分を指して何かしましたかと焦った様子でこちらに向かってきた。

「でも私、片桐さん好きですよ?」

「駄目だって調子に乗るから。」

笑って放った私の言葉に食いついたのはチーフだった。室長は仲がいいならそれでいいと苦笑いで見守っている。

「すみません。俺、何かしましたか?」

へこへこと頭を下げながら片桐さんが会話の中に入ってきた。チーフはすかさず私のリストを差し出してセクハラ寸前だとまた極力小さな声で片桐さんを叱りだす。

「片桐って画数多いから。」

「馬鹿かお前は!」

私にしてみたら大したことではないが、チーフ的には他所様の視線やら何やらが気になるらしい。片桐さんは頭がよくてとにかく仕事が出来る人だ、これで人格もしっかりしていたら完璧すぎて面白くないと思うんだけどな。

おかしいと思ったら上の人だろうが何だろうが意見を言う、下から見れば凄いし頼りになるけど上からすれば面倒な部下なようだ。

「黙って仕事してくれないかな。」

片桐さんに対して何度言ったか分からない言葉を室長が呟いて笑ってしまった。

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