私は彼に愛されているらしい
「確かに距離感は近いですけど、片桐さんが一番私に仕事を教えてくれてるんですよ?間違っているところは厳しく指導してくださいますし、失敗にも容赦なく付け込んできます。」

「知ってる。僕はいつ清水さんが辞めたいって言ってくるかヒヤヒヤして見てる。」

胸に手を当て方を竦めることで室長はその時の心境を表しているようだ。わりにひょうきんなところがある室長にはいつも笑って答えるところだがこの話題を聞き流す訳にはいかない。

「まさか!有難いことですよ。あんなに仕事ができる人の近くに居られるなんて、私の幸運だと思っています。」

それはいつも感じていることだった。だからかな、自分で思うよりも声に力が入っていたのかもしれない。目の前にいる室長は目を丸くして驚いているようだった。

仕事ができる人の傍に居れることは幸運だと思う。

その人の仕事ぶりや私では気付くことが出来ない観点は日々勉強だ、楽しいと思う反面に求められると苦しいがそれもいいと思ってる。

「楽しいですよね。」

そう言って笑う私に一瞬室長は微笑んだが、すぐに表情を崩して目を細めた。その視線の先は私を通り越している。

「あ、あざーす…。」

部長の視線の先に居たのは片桐さん、恥ずかしそうに会釈を繰り返しながら頭を掻いていた。ああ、私たちの話を聞いて照れているのだなと納得し私は黙って見つめることにした。

「まあ…清水さんに対しては毒ばかりじゃなく、役に立っているところも大いにあるからいいけどな。」

ため息交じりに呟かれた室長の言葉は私以外には伝わるものだったらしい。チーフは苦笑い、片桐さんは視線を逸らして企んだような含み笑いをしていた。

何のことだろう、そう思って尋ねようと口を開く前にチーフが先に声を発した。

「ま、とにかく今日の仕事だ。片桐、戻っていいぞ。」

「はーい。あ、みちるちゃん。来週から渡していくから宜しく。」

「分かりました。」

手を挙げて片桐さんは作業していた端末まで戻っていく。

時刻は17時の10分前、少し長話をしていたようだ。

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