私は彼に愛されているらしい
「じゃあ清水さん、図面を渡すね。」

「はい。」

時計を見て焦ったチーフは少し早口で私に確認をとった。そして歩き出したチーフに続いて彼の席まで付いていく。

「修正個所は赤いとこ。青は修正済みだから触らないで。」

「はい。」

「あとね…あ、この辺はちょっと細かいな。竹内!!」

その名前を聞いて私は思わず図面から顔を上げた。チーフは手を挙げて視線を遠くに飛ばしている、つまりは竹内くんを呼んでるんだ。それに気づいて私はもう一度図面を見た。

車種は知ってた。でも部位は、仕様は、それを注意深く確認して改めて気付かされる。

これって。

「清水さん。担当設計は竹内だから細かい指示は竹内から貰って?」

そう言ったチーフの視線の先は近くに移動している。それってつまり。

「清水さんが手伝ってくれるから。」

「はい。」

短い返事はすぐ隣で聞こえた。

「清水さん、宜しくお願いします。」

少し申し訳なさそうに頭を下げた竹内くんはすぐにチーフの机の上に広げられた図面を片付ける。そして手で移動するように促して竹内くんの自席に移った。

一体どういうつもり?

まさか人には残業するなと言っておいて自分は突発とはいえ残業するつもりだったの?

こんな時間まで私に何も言わずに?

何か腹が立ってきた、無性に腹が立ってきた。

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