私は彼に愛されているらしい

魅せられる

改札は1か所にしかないから場所は間違えていないと思う。

時刻は、そう思って時計を見ようとしたけど止めた。誰かと行動を共にする時は携帯は触らない主義、バイブの階数で電話かメールか位は分かるからあえて手にする必要もないし。

それに時間がどうとか、どれだけ考えたところで予想もしない事態が待っているに違いない。

例えば待ちぼうけにされるとか?

「…今までの流れからだと有り得るかも。」

「お待たせしました。」

また悪い方に考えが進みかけた時、聞き覚えのある声に触れられた私は顔を上げた。可能性としては低い方だったと思う。

竹内くんが現れたことに驚いて思わず目を見開いてしまったのだ。

「…本当に来た。」

「なんですかソレ。行きましょう、はいこれ。」

そう言って竹内くんは私に切符を差し出す。つい反射的に受け取ってしまったが切符代を払わなきゃいけないと気が付いた。

でもその時にはもう遅い。

「え?ちょっと、竹内くん!?」

彼は既に改札を通って駅の構内へと歩き出していたのだ。

ちょっとちょっと置いていくって何事よ!

すぐさま私も切符を握りしめて彼の後を追った。焦ると切符は機械に嫌われるのに。

一体何なの?調子が狂うな。

職場では明らかに忘れていた風な素振りだったけど今ではすっかり水曜日の様に戻ってしまっている。

会社での物腰柔らかな対応とはえらい違いだと私は気付かれないように舌打ちをした。

面倒くさい男。

外と中とで使い分ける人格は周りにとって迷惑なものだと気付いてくれないものかしら、本当に迷惑。

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