私は彼に愛されているらしい
忘れた疑惑をかけられて恐怖よりも怒りが勝った私は思いきり睨み付けて吐き捨ててやった。だってそうでしょ?竹内くんがお酒を飲むって言ったから言うこと聞いてきたのに。

「疑われるよりも先に褒めて欲しいくらいだわ。」

本当に腹が立つ。もう顔を見るのも嫌になったので私はもう一度顔を前に向けてズラリと並ぶ大きな企業の看板を眺めることにした。

勿論、内容なんて頭に入ってくる訳ない。一体何の為の食事なんだろう。

最悪だ、もう帰ろうかな。

そう心が沈みかけた時にふと頭に重みを感じて目を見開いた。心地いい、人のぬくもり?

「え?」

顔を上げると嬉しそうに微笑んでいる竹内くんが私の頭を撫でていた。

「ちゃんと覚えていてくれたんですね。偉い偉い。」

大きな手が私の頭を優しく撫でる、まるで愛おしいものを丁寧に扱うような空気に私は思わず見惚れてしまった。

嘘でしょう。竹内くんが笑っている。

意地悪そうな笑みじゃない、馬鹿にしたような笑みじゃない、凄く優しく笑っている姿なんて初めて見た。

頭から感じる竹内くんの体温が溶け込んでくるみたい。無防備なところに入り込んできた優しさはいとも簡単に私の心を熱らした。

嘘でしょう、私。

「あ、来ましたね。」

乗る予定の電車がホームに入ってくる。風を受けても私の熱は冷めそうになかった、顔も体も心も、間違いなく竹内熱にやられている。

電車が停車位置に着いてドアが開き、さすがに金曜のこの時間は下りてくる人も乗り込む人もそこまで多くは無かった。

「行きましょう。」

さりげなく繋がれた手に全神経が集中する。この前までこんなことなかったのに今の私は指先が触れるだけでもきっと過剰反応を示すだろう。

どうしよう、恥ずかしくて泣きそうだ。

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