私は彼に愛されているらしい
落ち着いた女性がにこやかに微笑んで手を差し出し誘導する。給仕をしていた店員も私たちとすれ違う時は足を止めて頭を下げ、低く落ち着いた声で歓迎の言葉をくれた。

なんて大人な空間だろうか。

中心街の夜景が望める窓側の席に通されて私たちは腰を下ろした。

メニューを渡されて気持ちが昂る、どれも美味しそうなメニューに目移りしてしまった。どうしよう、何にしようかな。コース料理がメインのお店なのよね。

「迷いますか?」

「そりゃ迷うよ!どれも美味しそうだな。」

最初は竹内くんに、最後はメニュー表に向かって呟くと私は悩み始めてしまった。そんな私を見て微笑む竹内くんの姿が視界に入る。

「さっぱりかこってりか、どっちの気分です?」

「うーん、今日はさっぱりかな。」

「じゃあ今日のオススメにしましょう、盛り沢山ですからね。ワインはいけます?」

「軽めのだったら。」

「後で変えてもいいですから。」

そう言って竹内くんは軽く手を挙げると反応した店員がすぐに現れ頭を下げた。

「これを。ワインは軽めのをお願いします。」

「畏まりました。」

メニュー表を指しながらオーダーをしていく、手元が忙しなく動いていたからきっと指か何かでさらに指示をしたのだろう。

慣れているのかな。

「どうかしました?」

私からの視線を感じた竹内くんは不思議そうに尋ねてきた。どうしよう、思ったことを隠す?いや、隠しても意味はないでしょ。

「うーん。慣れてるんだなって思って。」

「そりゃこの年ですから知っていることも色々有りますよ。師匠も沢山いますしね。」

師匠って誰だと聞きそうになったが安易に想像がついて止めた。きっと職場の先輩たちだ、男同士で集まった時にいかに女を落とすかを熱弁されたって誰かが言ってた気がする。

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