私は彼に愛されているらしい
「予約、してたんだね。」

「…しときますって言いましたよね?」

あ、しまった。竹内くんの目が座って不機嫌モードに入った瞬間を見てしまった。

せっかくご機嫌かどうかは置いといて穏やかな空気が上がれていたのにー!失敗した!

「言ってた言ってた!覚えてる。」

どんだけ取り繕っても無意味らしい。竹内くんは盛大なため息を吐くと明らかに不機嫌な顔で椅子に体を預ける。

ちょっと貴方、こういうお店でその態度はよろしくないのでは。

「さっきから何ですか?俺ちゃんと言いましたよね、金曜日に食事に行くから空けといてくださいって。店予約しときますからって言いましたよね?」

「うん、言ってた。覚えてるよ、ちゃんと覚えてる。」

声を抑えつつ大きな頷きをして私は竹内くんに体を起こすよう手を振って訴えた。

周りの視線が気になる、頼むから上がってきてくれ。

さらにムスっとした竹内くんはどうにか願いを聞き入れてくれて体を起こした。しかし相変わらず不機嫌なままだ。その反応にはさすがに腹が立って私も目を細める。

「だからちゃんと電車で来たじゃない。それに、竹内くんだって悪いんだからね?誘っておいて全く連絡がないなんてさ。何にも言ってこないから冗談だったのかと思うじゃない。」

あくまで声は落としてここぞとばかりに私は不満を口にした。だってそうでしょう、私はずっと心配だったんだから。

「連絡先も知らないし、目も合わないし。今日だってとりあえず電車で来たはいいけど最後は突発残業でしょ?あれはからかわれたんだって、多くの人がそう思うわよ。」

そう、怒りたいのも不機嫌な態度を取りたいのも全部私の方なんだから。どれだけ私が悩まされたか知らないくせに自分だけ不機嫌になるのはやめて欲しい。

そんな意味を込めて今度はこっちが大きなため息を吐いてやった。どうだ、ため息を吐かれた方の気持ちが少しは分かるだろう。

どんな顔をしているのか見てやろうと竹内くんに視線を戻して驚いた。

「…なんで笑ってるの?」

その満足そうな笑みは何?私は文句を言ったのよね、不満を言ったのよね、おまけに盛大なため息まで付けてやったのにその反応って理解出来ないんですけど。

しかも竹内くんは何も言ってくれない。
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