私は彼に愛されているらしい
私はやっぱり大人の女性にはなれない。

竹内くんは目を丸くして感情任せに思いを吐き出し続ける私を見ていた。見上げる態勢で、けっして怒る訳でも無く驚いたように呆然と見ていたのだ。

そりゃ色んな意味で驚くよね。

やがて勢いを失った頃に立ち上がり、今度は私が見上げるような形になった。これが通常の形だったっけ。

「予想以上でした。」

今度は何を言われるんだろう、もう気持ちが疲れてどうでもいいと思い始めているくせに身構えている自分が嫌になる。

「これだけ苦労したのに…効果があったのはやっぱ実力行使ですね。」

言われていることの意味が分からず、低い声に誘われて私は顔を上げた。

「実力行使ってなに…?」

絶対にいい意味じゃないと睨んで負けじとこちらも低い声で応戦する。負けてたまるか。私だっていい大人なんだ、男の人にもて遊ばれてやる程人生経験値は低くないつもりよ。

「何って。言ったでしょう?振り回された分、ちゃんとお返ししますって。振り回して振り回して、俺を意識したら一気に決めるつもりだったんですよ。清水みちるさん。」

フルネームで呼ばれたことに腹が立ち、言い返そうと口を開けて息を吸う。

しかしそれは叶わず言葉を飲み込む破目になった。目の前にあるのは竹内くんの顔、その距離はおそろしいほど近い。

体の一部はゼロの距離、つまり。


”実力行使”をされたのだ。


「…種明かしをしましょうか。」

まだ鼻先が触れるほどの近さにいる中で竹内くんは密やかに語りだす。

「連絡をしなかったのはワザとです。優しい清水さんは約束をした以上、完全に無視することは出来ない。だから連絡をしないことで俺のことを考えるように仕向けました。それに今日の残業も。」

「えっ…?」

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