私は彼に愛されているらしい
恥ずかしくて目を伏せていたのに、今日のことが気になって思わず視線を元に戻してしまった。そのおかげで近すぎる竹内くんの視線と絡み合う。

「ち…近…っ!」

抗議の声を漏らして肩を竦めても竹内くんは距離を取ろうとはしてくれなかった。

いつの間にか私の頬に触れていた彼の手に私の熱が伝わっている、私の二の腕を掴んでいる彼の手に震えが伝わっている筈だ。逃げようと思えば逃げられる。でも強引にでも逃げようとしない私は完全に竹内くんに捕らわれていた。

「今日の残業、先方がそんなギリギリに言ってくると思いますか?俺がギリギリまで放ったらかすと思います?」

まさか。その可能性を感じて私は恥ずかしさを忘れてまた視線を上げた。

「罠ですよ。清水さんに依頼が行くのも、だいたい20時位に終わることも全部計算済みでした。」

「…嘘でしょ。」

どうして、その言葉は続かずに私は目で疑問を投げかける。どうしてそんなことを仕組んだの?

「じゃないと終電逃す時間にならないじゃないですか。」

少し距離を取ってニッコリと笑う竹内くん。

ニッコリ、まるで悪戯が成功した子供の様な笑顔に私の思考は止まる。

ワザと。仕組んだ。罠。

全て私を意識させた状態で終電を逃すため。

その為!?

「このままホテルに連れ込む気だったの!!?」

「んな訳ないでしょう。聞いてなかったんですか?嫌がるようなことはしたくないって。本当は清水さんが行きたいんじゃないですか?」

「んな訳ないでしょ!!」

「あー、移った。」

竹内くんの言葉を繰り返す形になった私に楽しそうに突っかかる。信じられない、どういう神経してるのよ。

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