私は彼に愛されているらしい
■定時帰りの平日夜に
あやしい雲行き
「竹内。お前、清水さんと結婚すんの?」
チームミーティングが終わったあと、急に話を振られて俺は固まった。
声の方を向いてみると清水さん公認の保護者である片桐パパが割と真剣な顔でこっちを見ている。
会議スペースに残っているのは俺たち2人、タイミングを見て口にしたんだということは分かった。
が。
「…は、え?」
どうして突然そんな話になっているのかも分からず、片桐さんの質問の意図も掴めないのでとりあえず俺は反応だけすることにした。まあ、正直なところ頭が回っていない。
清水さんと結婚?当人同士の間でもそんな話は上がってないぞ。
一体何がどういう状況だ?
「煙草でも行くか。」
俺の動きを観察していたと思うと、片桐さんは人差し指をちょいちょいと動かして俺を外に誘い出した。
実際のところ俺は喫煙者でもないし、片桐さんも確か禁煙中だった筈だが誘い文句として使っただけだろうな。
「はい。」
迷うことなく頷くと資料を手にしたまま俺たちは会議スペースから離れた。
建物の両端に設けられた喫煙ルームは大きな力で始まった禁煙ブームのおかげですっかり物置とされ、快適だったこの空間を追われた喫煙者は唯一のスペースである屋上でしか吸えなくなっているらしい。
片桐さんもその余波を受けて止む無く禁煙に踏み出したとぼやいていた。まあ、それ以外にも踏み切る強いきっかけはあったようだが照れ隠しで世間のせいにしているようだ。
段ボールが積まれた喫煙ルーム、そのすぐ傍にある休憩スペースに腰を下ろし、買ったばかりのコーヒーを手にしながら俺たちは一息を吐いた。
俺の場合はため息に近いけどね。
「さっきの話な。」
「はい。」