私は彼に愛されているらしい
うちのチームの片桐さんと隣の室の東芝さんは、かつて同じ車両を担当していた時に名コンビとしてその名を周囲に知らしめた。頭のキレるやり手設計士2人は向かうところ敵なしで、当時の関連部署が思う様にやれず苦労したという話はあまりにも有名だ。

やり手エース同士波長もあったらしく2人の仲もすごく良かったらしい。

それは俺が入社する前の話だから実際に2人のタッグを見たことはないけど、今でも思い出したように語られる武勇伝は上司も頭を抱えたほど色々なドラマを生み出したようだ。

片桐さんよりも東芝さんの方が5つ程下だったと聞いたことがあるが、お互いに尊重し合って対等よりもいい関係を築けているのだと傍目で見ても分かった。

清水さんが一緒に飯を食べているのは設計補助の吉澤舞さんと設計士の持田有紗、つまり東芝さんは持田さんの教育係をしているということなんだろうけど。

「でも、東芝さんがどう関係あるんですか?」

それがよく分からない。

「…聞いたんだと。清水さんと持田さんが結婚について話をしてるとこ。」

さして興味も無さそうな口調で窓の外の景色を眺めたままコーヒーをすする片桐さん、俺はその姿を見つめたまま固まってしまった。

別に女性2人がいて結婚についての話をする分には特別な事ではないと思う。でも片桐さんの様子が気になって、まだそれ以上の情報があるのだと俺は続きを待つことにした。

「聞こえてきた内容だと…どうやら清水さんが前向きなように感じなかったらしくてさ。だから東芝さんが俺のところに聞いてきたんだよ。竹内はプロポーズを断られたのかって。」

「…は。」

あまりの衝撃に言葉にならない声を発した形のまま、ポカンと目も大きく開いて固まる。

それってつまり。俺はフラれたってことか?

え?何もしてないのに動く前からフラれたことになるのか?

いやいやいや、そんな阿保な考えは捨てておこう。

表面は止まっているが俺の頭の中は物凄い速さでいろんな考えが巡っていた。そんな俺の心理状態を察してくれているのだろう、片桐さんはチラリとこちらを見た後で小さなため息を吐いて言葉を続ける。

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