私は彼に愛されているらしい
アカツキの内側
「俺はね、思いやりがある訳じゃないんだよ。」
何を言い出すか、俺は考えていることとは別のことを口にしていた。
止まってほしいと思う反面、止まらなくてもいいと願う自分もいて心の置場が難しい。みちるさんは向き合ってくれていた。
「気付いてあげている訳でもない…気付いてしまうだけ。なんでか知らないけど相手の心理状態とかが勝手に分かるだけ。」
周りの人の動き、その意味についてを聞かなくても分かってしまうんだ。
「…え、なんで?超能力、とか?」
「それだけ人の気持ちや動きに敏感だってこと。つまり超鈍感のみちるさんと正反対の場所に俺はいるの。」
「超敏感ってこと?」
「うん、まあそれでいいよ。要は俺は気付く人間で、みちるさんは気付かない人間だってことさ。」
場の空気を和ませるためにわざとからかうような言葉を入れたけど案外簡単に無視されてしまった。そういうところも鈍いと言われる要因なんだけどな。
でも俺はそんな彼女に癒されてた。いま、この時間でさえも。
「でもそれでどうして結婚に向いてないってなるの?」
「気付くってね、案外いいことは少ないもんなんだよ。一緒にいても今どんなことを考えてるとか、これをやったら不機嫌になるなとか、これを待ってるんだろうなとか、相手にとっては楽かもしれないけど俺には気疲れが重なるばかりで辛いだけ。」
「…そう、なの。」
「仕事でも私生活でもそう。特に相手が俺と同じ気付くタイプの人だった場合は最悪。どっちも腹の探り合いで警戒しあって疲れる、っていうか対立に近いかも。」
みちるさんには分からない世界なんだろうな。
口を半開きにしたまま告げられる言葉をただ受け止めているだけのように見える。
彼女は本当に気が付かなかっただけで、実際周りでは色んな人間が腹の探り合いをしているんだ。想像も出来ないだろうからあえて言わないでおくけどさ。