君がため惜しからざりし命さへ
貴女に初めて会ったのは、
僕が空腹を満たす為に、人間の心臓を抉り出して食べていた時。
名前も知らない、心臓の持ち主の人間の…近くに居たのが、貴女だった。
空腹が満たされたから、貴女には手を出さなかった。
てっきり 次は自分の番だと思っていた貴女は、
不思議そうな顔で、僕を見つめていた。
「怖く…ないの?」
「私の事は…殺さないの?」
逃げ出すでも 叫ぶでも なく、僕の事を ただ見ている君が不思議で そう尋ねた声と、
君が僕に対して投げ掛けた言葉が、重なった。
「……うん」
「怖く……ない」
返事も重なった。
貴女の顔を見ると、少し可笑しそうに笑った。