無口な彼が欲望に忠実すぎて甘い
『うん』と
翌朝、私は教室の扉を開けるのにちょっと勇気が要った。
白井君の席はこの扉を開けたすぐ目の前。
わざわざ反対の扉に回るのも避けているようで悪い気がして、結局いつもの扉の前にいる。
いつもみたいに友達と話していて気付かないといいな。
彼は人の言動に敏感で、ひとりで居るときに側を通るとぱっと反応して必ず目が合うのだ。
一度目が合ってしまうとどうしていいかわからず反らすタイミングを失ってしまう私は、白井君のこの習性に日頃からちょっと困っていた。
―ガラッ
「おはよー」
「昨日のさぁ…」
「ちょっと聞いてよ~」
教室のドアを開けるといつも通りの光景で、白井君の席に目を向けるとこちらには背を向けていて目が合うことはなかった。
―ほっ…
やっぱりなんでもなかったのかな。
なかったことにすればいいのかな?
一抹の不安を感じながらもその日は平凡な自分に相応しく、びっくりするくらいなんにもない1日が終わっていった。