無口な彼が欲望に忠実すぎて甘い
終わっていった、と思ったのだ。
だって、今日1日、放課後の掃除まで目が合うこともなく、近くを通ることさえなかった。
普段から私は、人が、特に男子が近くを通るだけで緊張してしまう。
だから廊下を歩く時も教室を歩く時も、出来るだけ注意深く人と距離を置くようにしている。
でも、白井君だけは、いつもそんな私の心配をよそにふいっと私の側を通るのだ。
掃除の時間、教室の黒板を消しているとよく、白井君が側を通る。
黒板と教卓の狭い隙間を通ろうとする人がいれば、すぐに避けられるようにいつもちょっと気にしているのだけど、何故か白井君は私が退こうと思う前にすり抜けられてしまう。
でも、この時は絶対に目が合わない。
教壇の上に乗っている私から顔を背けるように俯いて、私の横をすり抜けた途端顔を上げる。
正面を向いて黒板を丁寧に消している私は真後ろを通られたことに気付くといつもびっくりしてその気配と後ろ姿を見送る。
そしてそれは、私が人の側を通るときの息を詰める様子とよく似ていて、ああ、この人も、人が苦手なんだな、と思うのだ。
私はただ、少し高い目線のせいで見える白いつむじとふわふわする髪を見つめる。