隣の津川さん
あー、もう自分が情けない。

なんでこういうときに、はっきり、ずばっと「無理です」って言えないんだ、本田!

「もし、その今お付き合いしている人と別れたら、剛と付き合ってみる気にならないかね?」

宮田のばあさん、いつの間に本田の目の前に顔を突き出している。

まぶたもずいぶんと下がり、皺も深く刻まれた顔だが、よく見ると色が白くて、若い頃は結構きれいだったんじゃないかな、と思わせる顔立ちだ。

白内障になりかけか、瞳が少しにごっている。

「あの・・・。」

宮田のばあさんの顔がさらに突き出た。

「私、教師という職業は生涯かけて全うしたいんです!」

ほ、本当か?本田。

あわよくば、寿退社したいなんて、妄想していないか?

本田はよくもこんな嘘が言えるものかと、自分自身で驚いていた。

「それは心配ない!」

宮田のばあさんがばっさりと切り捨てた。

「へ?」

「本田さんは、お国のために先生を続けるべきだ。肉屋の方は心配要らないよ。あたしたち二人で十分回していけるから。」

宮田のばあさんはいきなり立ち上がって、そう言い切った。

「で、でも・・・。」




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