隣の津川さん
「だったら、あんたはどうして今ここにいるんだい?」

葛巻さんは納得がいかない。

「まあまあ、葛巻さん最後まで話を聞いてくださいよ」

庄司さんはおもむろにポケットからタバコを取り出し火をつけた。

「親父の話を聞いてとりあえず実家にいたはいたんです」

庄司さんの口から白濁の吐息がこぼれる。





「なあ、おまえはさあ、好きに生きたらいいさ」

親父の髪の毛はすっかり白銀に染まり、小さくなった体をさらに丸めてつぶやいた。

「まあ、もう金は出せなくなっちまったがな」

親父は背中だけでくっくっと笑った。

「親父……」

「自分の納得いく生き方をしろよ。やり残したことがないように、な」

親父のごつごつとした皺だらけの手が俺の肩をぽんと叩いた。

おふくろはただ黙って微笑むだけだった。




「やり残したこと……?」




田舎に帰ったあとも俺を苦しめていることがあった。

俺はあえてそれに向き合わないようにしてきたが、答えはすでに出ていた。


そう、俺にはやり残したことがあったんだ。




< 116 / 131 >

この作品をシェア

pagetop