隣の津川さん
庄司さんは頭をぽりぽりと掻く。

「その時点では……サラが差出人ということになりますかねえ」



――夕暮れ時のエレベーターホール。

このマンションは単身者か夫婦だけの世帯のみが住んでいるため、この時間帯は案外ひっそりとしている。

エレベーターの明かりが止まった。

庄司は非常階段のドアの横に身を隠して、エレベーターの扉が開くのを今か今かと待ち構える。

扉が開くと、外国人女性が現れた。

ぎこちなく首を左右に振り、誰もいないかを確かめているらしい。

どんなに気配を消してもその靴音だけははっきりと聞こえる。

女はいったん立ち止まり、自分の足元を睨みつける。

ハイヒールでは音を立てないで歩くのは相当難しい。

誰も周りにはいないようだし、女は気を取り直して前へ進む。



この時点では庄司は彼女が誰なのかまだ理解していなかった。



女は津川さんの部屋をちらりと一瞥したものの、迷うことなく本田さんの部屋の前で立ち止まった。

そしてバッグから黒い封筒を取り出すとすばやくポストへ押し込んだ。

そして何食わぬ顔でエレベーターに戻り、下へ降りて行った。



エレベーターのドアが閉まるのを確認すると、庄司さんが飛び出した。

庄司さんは本田さんの部屋のポストに手を突っ込み、中を探した。

庄司さんの筋肉の少ない細い腕は意外にもポストの奥深くまで達し、黒い封筒を取り出すことができた。

「これは!」

幸い封が糊付けされていなかったので、庄司さんは中を開ける。










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