隣の津川さん
「こちらのスカートはいかがでしょうか?」

店員はシフォンの花柄のスカートを持ってきた。

このスカート、まさに恋人とのデートのイメージ。

「これだ」と思い、本田は喜び勇んで試着室に入った。

自分のパンツを脱ぎ、シフォンのスカートに手をかける。

こういうスカート憧れるわ~。

ふわふわのロングへアにブラウスとこのスカートがあれば、男どもはみなひざまずくはずだ。



ところが、試着室の鏡を見て唖然とした。

シフォンのスカートと本田の顔はものの見事のミスマッチだ。

しかもなんのしゃれっ気もないショートヘア。



それでも「見なかったことにしよう」と気持ちを切り替えて、スカートを穿こうとするが、太もものあたりでひっかかった。

なんとか穿こうと試みたが、スカートのホックが全く閉まらない。

閉まらないと言うより、届かない。



「お客様、いかがでしょうか?」



「いやあちょっと待ってください。ははははは・・・。」



試着室の中の様子に気づいた店員は慌てて言う。

「お客様、お気に召さないようですから違うデザインのものをご用意いたしましょうか。」



突然本田の中のスイッチが切れた。

私はいったいこんなところまできて何をやってるんだ?

なんで恋人とデートのイメージで服を買おうとしているんだ?


「あの、ちょっと急用を思い出したので、これで失礼します。」

試着室のカーテンが開いて本田が出てきた。

「どうもお手をわずらわせました。」

ついさっきまでのテンションとは違う本田に困惑しながらも、店員は頭を下げて本田を見送った。
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