隣の津川さん
津川さんはテーブルの上にオードブルを何品か用意した。

「フランスではアペリティフと言って、夕食前に軽くつまみながらお酒を飲む習慣があるんです。」

グラスにシャンパンをついで、パーティーがようやく始まった。



「それでは、乾杯!」

グラスに注がれたシャンパンの泡が日に透けてきれい。

本田はちょっと乙女チックにフランス人とのパーティーを堪能する気になっていた。

「あの、フランス語で乾杯ってなんて言うんですか?」

庄司さんがまじめな顔で3人に向かって質問した。

途端、フランソワさんが立ち上がってグラスを高々と掲げ、こう叫んだ。



「ちんちん!」



あっけにとられている日本人3人。

フランソワさんは、口元でにやけながら、庄司さんの股間を指差して言った。


「発音は一緒でも、ものは違います!」



一同大爆笑!




「おや、顔が赤いですよ、オンダさん。」

ディディエさんが本田の顔を覗き込んで指摘した。

「赤面しているんです!日本人女性にはそういう奥ゆかしさがあるんです!それよりオンダじゃありません。本田ですから!」

フランス人はHの発音が難しいということは聞いていたが、実際自分の名前を間違って発音されると気になる。

なんとか正しく発音させたいと、本田は意地になった。

「オンダじゃなくて本田!」

ディディエさんはげらげら笑っていて、全く取り合おうとしない。

それどころか・・・、


「トヨタ、ニッサン、オンダ、チンチン!」


と言い出す始末だ。




本田を除く全員がディディエさんの挑発に乗って大合唱、


「トヨタ、ニッサン、オンダ、チンチン!トヨタ、ニッサン、オンダ、チンチン!」











< 31 / 131 >

この作品をシェア

pagetop