隣の津川さん
「なんだか危うしって感じですねえ。」

背中で笑いをこらえるように誰かが言った。

こんなことを言うのは、あいつしかいない。

振り返ってやっぱり!

「あのねえ、庄司さん、何が危うしなんですか。」

本田は穏やかに答えることはできなかった。

「いやあ、本田さんてほんと、わかりやすいよねえ。」

庄司さんの目が憎らしいほどにもの言いたげだ。

「だから?」

本田はこの瞬間できる限り冷静に言ったつもりだったが、声の抑揚が明らかにおかしくなっていた。

「いくら葛巻さんが津川さんにお熱だからって本気で心配はしなかったでしょう。でもさすがにフランソワさんがライバルとなるとちょっと同じ土俵では戦えないっていうか・・・。」

庄司さんはずれかかったメガネを人差し指ですっと持ち上げて本田を指差した。




「要するに本田さんの恋は今回も成就しないのです!」




な、な、な、なにーーーーーーーーっ!!!




こんな虫けらになんでこんなことを言われなきゃならないのか?

本田は全身の血が逆流するのを感じた。



庄司さんは勝ったとばかりせせら笑っていたが、このときばかりは何が起こるか予想していなかっただろう。

なぜなら当の本人の本田自身でさえ予想できなかったから。
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