隣の津川さん
本田が伸びてしまって、あのあと、庄司さんは本田の歯形だけでは済まず出血もし、病院で何針か縫ったらしい。

「まったく、たいへんだったのよ。あたしは庄司さんの病院についていかなきゃならないし、本田さんは気絶しちゃってるから動かせないし、さんざんなパーティーだったわ。」

葛巻さんが文句を言った。

「すみませんでした・・・。」

「あら、やだ、そんなに素直に謝られちゃうと調子狂うじゃない。あのときの勢いはどうしたのよ、もう!」

葛巻さんはマンションの周囲を囲む花壇の草むしりをしながらも、本田のリアクションに拍子抜けしていた。

「最悪ですよ・・・。」

本田はうなだれたまま自転車を押して歩く。

「ちょ、ちょっと、本田さんたら。何かあったの?」

背中で葛巻さんの声が聞こえる。

本田は振り返らずに、自転車にまたがった。



昨日の今日。

本田、失恋決定的ではあるが、仕事に行かないと生活できない。

もう10歳若かったら、失恋してズル休みなんて手も使っただろうが、本田は中途半端に年だけはとってしまった。



常識、世間体、大人の理屈・・・。



それに反発するには痛々しい年齢といっていいだろう。

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