隣の津川さん
次の日の朝、本田は自転車置き場にいた。

自転車の鍵をあけて、後輪を右手で持ち上げながら出そうとしていると、大きな手が本田の手に重なった。

「貸して下さい。僕がやりますよ。」

津川さんだった。

津川さんはいつもと同じようにさりげなく親切に自転車を出して、微笑んだ。

「おはようございます。今日もいい天気ですね。」

本田は自分の顔が赤らむのがわかった。

津川さんとの通勤には慣れてきたが、彼のやさしさにはまだ慣れることができずに、うろたえる自分がいた。

「つ、津川さん。いつもありがとうございます。でも自転車くらい自分で出せますよ。大丈夫ですから。」

本田が勇気を振り絞って長文で返すのだが、津川さんはやっぱりいつもどおりにこう言う。

「そんな、こんなことくらい。本田さんは女性なんですから、力仕事は僕に任せてください。」
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