隣の津川さん
「これ知ってますよ。僕も昔読んだ記憶がありますね。」

意外にも津川さんもこの手の本を読むことがわかり、ほっとした本田だった。

「それにしても、この部屋にディディエを呼んだら興奮するでしょうね。」

「ディディエって・・・。」

「以前うちに来た、フランス人の一人ですよ。トヨタ、ニッサン、オンダって連呼していた。」

「なんか、いかにも好きそうな感じですね。」

あのお下劣フランス人と本田の趣味が合うなんて認めたくはなかった。

が、おそらく今津川さんの頭の中では、不本意ではあるが、本田とディディエはひとくくりにされたはずだ。

本田は話題を変えようと、津川さんにマッサージ機を勧めた。

「津川さん、これ昔のだけど、結構効くんですよ。」

「いいですね。僕肩こりが結構ひどくって。」

津川さんは嬉しそうにマッサージ機に座った。

スイッチが入ると、津川さんは目を閉じてマッサージを堪能し始めた。

「これ結構旧式なんですけど、ばっちりツボに入るんですよ。私、お風呂から上がると必ずこのマッサージ機にお世話になるんです。」

「うう、本当にききますねえ。」

「私は肩こり専門なんですが、最近ふくらはぎをエアで揉んでくれるのもあるじゃないですか、実はそれ狙っているんです。ボーナス出たら買っちゃおうかなって、自分へのごほうびって言うんですか。」

自分のご褒美が貴金属類でなく、マッサージ機というのがいかにも本田らしい。

「そしたら古いほう、津川さんにお下がりしてもいいですよ。」

津川は目を閉じたままだ。

「とかいって、毎晩うちの新しいほうのマッサージ機使いに来ちゃってもいいですよ。津川さんなら。」

うふ。言っちゃった!

< 61 / 131 >

この作品をシェア

pagetop