隣の津川さん
「ちょっと、本田さん。」

葛巻さんがエントランスのところで、出勤前の本田をつかまえた。

「ストレートに聞くわよ。津川さんがあんたの家に泊まったって本当なの?」

どき。

「ど、どうして?」

「新聞配達の少年が明け方津川さんが本田さんの部屋から出てくるのを見たって言うのよ。私はありえないって言ったんだけどね。」

「なんで新聞少年が葛巻さんにそんなこと言うんですか?」

「だって、私津川さんの大ファンなんだよ。いろんな情報を知っときたいじゃない。だからたまにおこづかいあげて有力情報をもらってるのよ。」

葛巻さんはほっほっほーとふんぞり返って笑っている。

「で、まさか津川さんが本田さんちに泊まったっていうのは見間違えだよね。」

「いいえ。」

本田は葛巻さんを見下ろして言った。

「ま、まさか!」

葛巻さんの顔がひきつった。

「新聞少年が見たのは事実です!」

本田は「勝った!」と内心ガッツポーズをしていた。

葛巻さんは力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。
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