隣の津川さん
地に足がついてないというのはこういうことなのだろう。

本田は宙に体が浮いているような不思議な感覚の中にいた。

達観というのだろうか、俗世間から離れたところにいるかのようで、何が起こっても動じない自信があった。



「本田先生、電話です。」

河本先生が呼びに来た。

「なんか・・・苦情の電話みたいですよ。親御さんかなりいらいらしているみたいで・・・。」

河本先生は気の毒そうに本田に話しかけた。

「は~い。わかりました。」

時々このような苦情の電話が父兄などから寄せられるのだが、今までの本田ならば、ずどーんと落ち込み、電話に出るのにかなりの勇気が必要だった。

しかし、今日は何の気後れもなく、心の揺れもなく電話に向かった。

電話近くの席の先生たちが耳をそばだてて、本田の電話を聞いている。

「お待たせしました。本田です。」

電話の相手は、花田浩輔の母親だった。

花田の父は開業医で、浩輔は一人息子。

母親は専業主婦で、学校で一、二を争う教育熱心な家庭だ。



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