隣の津川さん
授業が終わって会議の準備をしていると、職員室の電話がなった。

出張に行っている4組の横田先生からだった。

「本田先生ですか?すみません、今新幹線のポイント故障でいつそっちに着けるかわからない状態なんです。」

横田先生を含めた2学年の担任全員で会議を行わないと意味が無い。

「わかりました。それでは、月曜日に変更しましょう。」

急遽予定が変更になった。

会議がなくなったので、本田はすぐに家に帰ることにした。



「携帯鳴らさないでいきなり帰ったら、津川さん、びっくりするかなあ。」

本田はまるで女子高生のようにうきうきしながら家路を急いだ。



商店街を走っていると、鼻のアンテナがひくひくした。

あ、あの匂いは・・・宮田肉店のじゃがいもコロッケだ。

宮田肉店は今にもつぶれてしまいそうなおんぼろな店構えだが、味には定評がある。

まもなく50才になるであろう禿げ上がった独身息子と80才近い母親が二人で切り盛りしている。

肉は息子、惣菜は母親と、うまく分担して回っている。

「やだあ、本田先生。久しぶりじゃないの!」

本田は匂いに負けて、宮田肉店の前で自転車を止めてしまった。

「最近見なかったけど、あんた元気でやってたの?」

そうだ、前回この店にやってきたのはいつだっただろうか。

< 83 / 131 >

この作品をシェア

pagetop