隣の津川さん
「じゃ、コロッケと、あとなんにする?ハムカツ?」

宮田のばあさんは、本田の好みをよく覚えていた。

本田、軽く感激する。

「そうだね、2こずつでお願い。」

そうだ、津川さんに食べさせてあげよう。

津川さん、たぶんここのコロッケ食べたことないはず。

お土産に買っていったら絶対喜んでくれるはず。

「2こずつって?」

宮田のばあさんの手が止まった。

「へ?」

二人の視線は合ったまま、むずかゆい沈黙が数秒。

「先生、恋人できたのかい?」

ばあさんは商店街じゅうに聞こえるような大声で叫んだ。

買い物客らが一斉にこちらを向いた。

「ちょっと、おばちゃん!」

本田は人差し指を口元で立てて「しーっ」と宮田のばあさんを静めようとしたが、焼け石に水だった。

「だから言ったじゃないか。剛!あんたがちゃんと先生をデートに誘わないから、こういうことになるんだよ。」

剛・・・宮田の息子は禿げ上がった頭のてっぺんまで真っ赤になって、「母ちゃんやめてくれよ」と母親をなだめている。
< 85 / 131 >

この作品をシェア

pagetop