隣の津川さん
本田はコロッケを受け取って逃げるように商店街を後にした。



それにしても、宮田のばあさん、私と息子をくっつけようと思ってたなんて・・・。

本田はコロッケを揚げる自分の姿を想像してみた。

「はいよ。コロッケ3ことメンチ5こね!」

白い三角巾をかぶった肉屋のおかみさんになっている自分にまったく違和感がない。

自分でもいやになる。

本田は頭をぶんぶん振った。

そうなんだ。

デブでハゲの宮田の息子と本田のカップルは世間様から見て釣り合いが取れているというかお似合いだろう。

一方長身でフランス語堪能でフェミニストな津川さんと本田のカップルは違和感があるだろう。

しっくりいかないというか、なんというか・・・。

鴨のテリーヌといもの煮っころがしが同じ食卓に並んでいるようなミスマッチ。

どう見ても、本田は津川さんの妻よりも、宮田肉店のおかみさんの方がぴたっとはまる。

そしてそんなふうに考え始めると、本田は奈落の底に落ちていくような気分になる。

どうして津川さんは本田を選んだのだろう?

いや・・・ちょっと待て。

津川さんは本当に本田を選んだのだろうか?

本田はたまらなく不安になり、むやみに強く自転車のペダルを踏んだ。


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