隣の津川さん
「葛巻さん・・・ありがとうございます。」

不覚にも本田、葛巻さんの前で涙をこぼしてしまった。

「やだあ、どうしたんだい。本田さん。」

初めて接する葛巻さんの優しさに本田はいろいろな思いがこみ上げてきた。



う、う、うわーーーーーーーーーん。



本田は葛巻さんの膝枕の上に顔を押し付けておいおいと泣きじゃくった。

葛巻さんの膝枕はどっしりとしていて安定感があり、本田が顔を突っ伏しても安心して泣けた。

おまけに、分厚い手のひらは温かくて、本田の頭を撫でる感覚は、田舎の母親そのものに思えた。


「どうだい、ちょっとは落ち着いたかい?」

葛巻さんは本田にティッシュの箱を手渡した。

「はい、すみません。こんな姿を見せてしまって。」

本田は恐縮しながらもティッシュを5枚ほど抜いて、力いっぱい鼻をかんだ。

「あの・・・葛巻さん、どうしてうちに来られたんですか?」

葛巻さんは突然我に帰ったように慌て出した。

「そうだ、私ったら・・・。」

葛巻さんは立ち上がると部屋の明かりをつけた。

すっかり夜になっていたので、部屋の中は真っ暗だった。

「本当は津川さんの部屋に行ったんだよ。てっきり二人でごはんでも食べてる頃かななんて思ったからね。ところが津川さんの部屋はもぬけの殻。鍵もかかっていないし、どういうこと?で、本田さんちかなって思って来たわけ。」
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