隣の津川さん
ピンポーン。

「ありゃ、ついに津川さんのお出ましかい?」

本田に代わって、葛巻さんがドアを開けた。

「まったく、あんたはいったいなにを考えているんだい?」

葛巻さんは強い口調で言い放ったものの、その後言葉が続かなかった。

「あ・・・。」

ドアの外に立っていたのは、宮田のばあさんだった。



「なんで、あんたが・・・?」

葛巻さんと宮田のばあさんは、前もって打ち合わせがあったように、寸分の狂いもなく、同時に言った。




「まあ、お茶でも・・・。」

本田は二人のために熱いお茶を入れた。

今、本田の部屋には、本田と葛巻さんと宮田のばあさんが膝を突き合わせて座っている。

「本田先生、あんた、もうその恋人と添い遂げることに決めたのかい?」

宮田のばあさんが沈黙を打ち破った。

「そ、添い遂げる?」

「あたしゃがっかりしたねえ。本田先生にはぜひうちの息子をって心に決めていたからねえ。もっと早くになんとかすればよかったよ、本当に。」

宮田のばあさんは、湯飲みを持ち上げてぐぐっとすすった。

「うちの剛ときたら、わかるだろ?ほんと、奥手だからねえ。あの子だって、本田先生のこと気に入ってるんだよ。でもさ、いくらあたしが、デートに誘えって言ったって、あの子顔を真っ赤にするだけで黙っちまうんだもの。」

宮田のばあさんはがっくり肩を落として、大げさにため息をついて見せた。
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