ドミナントセブンスコードBm7
「平気? 車酔いそんなひどかった?」
 安本さんが心配そうにこちらを見た。引きなおした口紅が鮮やかだ。
「ううん。ごめんなさい。大丈夫。バスは平気だと思ってたんだけど……」
 あまり長い間は無理みたいだ。
 ぐらぐらの意識のまま、バス停のベンチに腰を下ろす。吐き気以上にガンガンと響く頭痛に目を閉じた。

「ユミとレナ、降りるとこ間違ったみたいで道わかんないって言うからアタシちょっと駅行ってくるね。雨が降ってきたら適当に……」

 言いかけて、安本さんが周りを見渡す。繁華街近くの騒がしい街並みは、早々に閉じた銀行以外ちかちかと賑わっている。

「あー携帯、ないんだっけ」
「うん、ごめん。……いいよ、行く」
「いや、いいっていいって! 店この近くだし、休んでて。あ、ドンキ! あの角にあるからさ、そこで適当に時間つぶしてて」

 そう言って指差した先に、黄色と赤の派手な店舗が見えた。看板に据えられたぎょろっとした目の帽子をかぶったペンギンが、あらぬ方向を見ている。

「わかった」

 頷いて、安本さんを見送る。今にも降り出しそうな空が、立ち込める灰色の雲を流していた。
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