愛を乞う、ケダモノ
彼の話によると事の経緯はこうだ。
他社との合同プロジェクトで仲良くなった人たちと飲みに行ったら、そのうちの女性ひとりに誘われたのでふたりきりでもう一軒飲みに行き、その流れで彼女の家に行き、流れで致した後、実はずっと気になっていたと告白されてしまったけれど、おれには凛子ちゃんという同棲中の恋人がいるんだと言って写メを見せたら、キレられた。
ふざけるな!!
彼女がいるなら先に言え!!
ここで平手打ちバッチーン。
そして浮気したこと彼女にバレて酷い目に遭えばいい!!と、香水を鬼のようにぶっかけられたらしい。
……ああ馬鹿馬鹿しい。
なんて馬鹿馬鹿しいんだろう。
「凛子ちゃんごめんなさい、本当に……お願い嫌いにならないでお願いします」
何度もごめんなさいを繰り返して、べそべそと目を赤くして、鼻水まで垂らして、狼狽しきった伊原木くんはなかなか私を放そうとしない。
浮気されたのだ。この馬鹿野郎を殴ってやりたい。
というか彼は私にこそ殴られるべき。
でも必死に許しを乞い泣いてしがみついてくる彼が、哀れで、惨めで、愛おしくて、
「……わかったから、早くシャワー浴びてきなよ。鼻がもげそう」
つい優しく頭を撫でてしまうから、私も大概馬鹿女だ。