初恋はカフェ・ラテ色
耳までおかしくなったんだ。洋輔さんの声が聞こえちゃうなんて……。

「心春!」

今度は強引に呼ぶ洋輔さんの声。

こんな風に呼ばれるのも良いな……。

「心春! 聞こえないのか!?」

背後から腕を掴まれてクルッと振り向かされた。その衝撃で傘が私の手から離れる。

「あっ……」

どうやら空耳ではなかったらしい。私を掴む手は洋輔さんだった。

洋輔さんはなぜか眉間に皺を寄せて私を見ている。

「ぼんやりしてどうしたんだ?」

洋輔さんは落ちた傘を拾い、雨がかからないように持ってくれる。

「心春?」

言葉が出て来なくて、洋輔さんの顔を見るのがやっとでいると、気遣うようなふんわりとした笑みを向けられた。

「よかった。避けられているのかと思ったよ」
「さ、避けてなんかないよ……」

洋輔さんの笑みにほんの少しだけ元気づけられていく。

「月曜日以降、来なかっただろう?」
「い、忙しかったの。」
「ラテ飲んでいく?」
「……ううん。帰る」
 
洋輔さんとの時間を持ちたいけれど、心の中はまだぐちゃぐちゃだった。

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