初恋はカフェ・ラテ色

『柴田屋』を

「いい親なら店のことなんかより、娘のことを考えるもんだよ!」

魚屋のおばあさんが顔を真っ赤にして怒鳴りつける。

「この店がつぶれてもいいって言ってんのかっ」

お父さんも負けていない。

「そうじゃないさ! まだまだお前さんも元気じゃないか。心春ちゃんの人生を縛っちゃだめさ」

店の中がどんより険悪な空気が漂う。

依子さんが接客していた若いお客様はお金を払うと、お父さんの剣幕にそそくさと立ち去り、魚屋のおばあさんもお母さんから買ったものを受け取ると口元をぐっと引き締めて店を出て行った。

顔を真っ赤にしているお父さんはどすどすと大きな足音をさせて工場に消える。

「心春、紙コップ片付けて」

まだ動揺している私に、お母さんは何事もなかったように言う。

「お父さんに聞いてくる!」

冗談じゃない! 順平さんと結婚だなんて!

「ちょ! ちょっと心春!」

お母さんの呼び止める声がする。
憤る私の足は止まらずお父さんのいる工場へ向かった。

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