初恋はカフェ・ラテ色
工場はケーキを作るときのように甘い香りはしない。作業台の上も地味な感じで、黙々とつくられていく和菓子。

ケーキを作るときも好きだけど、ここは小さい頃から慣れ親しんでいた場所。

居心地の良い場所だけど、今はそれどころではなかった。

これからお父さんと対峙しなければならないのだ。
緊張した面持ちでお父さんに近づいた。

工場には試作品を作っている順平さんもいた。お父さんは鍋に向かってイライラした表情で中身をかき回している。

「お父さん!」

怒鳴るように言っても振り向いてくれないお父さんに地団駄を踏みたくなった。

作業台向こうにいる順平さんをちらりと見る。順平さんは手を止めてこちらを見ていた。

「お父さん、さっきの話は縁談を諦めてもらうために言ったんだよね?」

順平さんと結婚させるなんて本気じゃなく、縁談を断るために言ったものなんだと自分に言い聞かせている。

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