初恋はカフェ・ラテ色
富士山の麓で雷雨にあったとき、洋輔さんの言った言葉を思い出す。

「成人式、大学の卒業式、俺としては意思表示をしていたつもりだったんだ」

どうして話してくれなかったの?と聞いたら、事情があってね。と言った。

事情ってこのこと……?

お父さんはこの事を言われたくなかったようでバツの悪い顔をしている。

「そんなこと約束させるなんてひどいっ!」

私の片思いは本当なら……邪魔されなければ、こんな時間がかからなくて実っていたんだ。

そんなことを言う両親を信じられない目で見つめる。

「ずっと彼は心春を見守っていてくれたんだよ。イイ男じゃないか」
「そうですね。洋輔くんは心春に黙ってずっと見守っていてくれましたね」

お母さんもしんみり口にする。

「お前までなにを言うんだ! し、『柴田屋』はどうなる!」
「『柴田屋』はお前の代で終わらせればいいじゃないか。店が閉まっても食べていけるだけの財産はある。名を残したければ、順平にのれん分けすればいいだけだ。娘の幸せを親が邪魔するものじゃない」
「俺は手塩にかけた順平と心春が結婚して『柴田屋』を継いでくれるのが夢だったんだ」

先ほどの勢いはどこへいったのか、ガクッと肩を落としてお父さんは言葉にした。

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