初恋はカフェ・ラテ色
雨は上がっていて、気分よく赤い傘をぶらぶらさせながら歩いていると、後ろから声をかけられた。

「心春さん」

少し声が高めの女の子の声に立ち止まり振り返る。

「川村さん。こんにちは。これからですか?」

『カフェ・グラン・ロッソ』のアルバイト川村あいさんだった。

「いいえ。ちょっと心春さんに話しがあって」
「話……?」
「すぐ済みますから」

人の流れに邪魔にならないように隅に寄ると、川村さんはなにか決意したように口元を引き締めて私を見る。

「どうしたの?」
「八方美人は止めてください!」

思いがけない言葉に私は面食らった。ポカンと口を開き、川村さんを見てからハッと我に返る。

「八方美人ってどういうこと?」
「だって、オーナーが好きって言いながら太一くんともベタベタしちゃって。それに他のスタッフにも」

彼女がそんな風に自分のことを見ていたなんて……。

「そんな……私は普通に接しているつもりです。太一に気があるわけじゃないし」
「それは本当ですか?」

疑いの目で見られ、心の中で大きくため息を吐く。

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