一途な彼は俺様モンスター

忘れられない過去 空翔side

空翔side


人間界で仕事をして、一番不愉快なこと…

それは急に会議が入り、そしてその会議が長いことだ。





「………えーですから…ジムの売り上げとしては…」


本社からきた上司が、得意げにホワイトボードに貼られた資料を指さす。

その顔に、ますますイライラした…




「空翔…足!」

「あ?」


隣にいる楓雅が、俺に小声で言う。

楓雅は俺の足を指さしていて、自分の足元を見ると…俺は貧乏ゆすりをしていた。




「…悪ぃ」

「いーけど…珍しいね。空翔がそんなにイライラしてるなんて…まあ、気持ちはわかるけど」


俺を見透かしたように、楓雅は少し微笑んで眉を上にあげた。




家に浅海とバネを残して、こんなに長時間家を開けたのは初めてだ。


心配…

ただ、それだけ。



バネがいるから、大丈夫なのはわかってる…

いくらあいつがまだチビでも、雑魚モンスターから浅海を守る力くらいは持ってる…


だけど、心配。

早く会議が終わって欲しい…


こんなモヤモヤしてると、いつも心の隅にある忘れられない記憶が、俺の胸をいっぱいにしてくるんだ。



あの日のことを…

今でも後悔してるから…




俺の記憶は、ガキの頃にさかのぼる…


人間でいえば10歳くらいだ。

俺は人生で、最初で最後の恋をした…





『ハッ!楓雅!もっと強くこい!』

『おうっ!』


俺と楓雅は子供の頃は山にこもり、毎日修行をしていた。

生まれた時から、俺と楓雅はずっと一緒で…兄弟のように生きてきた。


俺たちは2人で生活しながら、強いヴァンパイアになるために、日々修行を頑張っていたんだ。






『つーちゃーん!』


修行中…

山のふもとに住む年下の娘が、俺たちを見つけて手を振ってくる。




『“つーちゃん”て呼ぶなって言っただろ』


俺はその娘に素っ気なくそう言って、ひたいから流れ出る汗を手で拭った。




『いーじゃん!つーちゃんはつーちゃんだもん♪ね?ふーちゃん!』

『あさみちゃん…俺も“ふーちゃん”は嫌だな~』

『ふふふ♪』


苦笑いをする楓雅を見て、いたずらっ子のような顔で笑う娘。


そう…

この娘が浅海。



俺たちは、ガキの頃にもう出会っていたんだ…

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