一途な彼は俺様モンスター
記憶を消さない代わりに、この人と一生一緒にいないといけないの…?

そんなの…




「お断り」


だったら、死んだ方がマシ。




「残念だ…もっと話がわかる奴だと思ったのに…なら……また記憶を消させてもらうぞ」


紙神が、こっちに一歩ずつ近づいて来る。

恐怖で体が震えた。




「今度は兄じゃなく…俺の恋人ということにしようか?ん?」

「こ、来ないでっ!」


近づいて来る紙神に背を向けて、草むらの中を走って逃げた。




あんなやつと恋人なんて…冗談じゃないっ

私には…空翔がいるのに…


記憶を取り戻して、改めて空翔の存在が恋しくなった。


空翔とは子供の頃からの付き合いで、私の昔の記憶がない状態で再会した…

というか、空翔が紙神から私を救ってくれたんだよね…それに、私の記憶がないのにすごく優しく接してくれた…

見捨てないでいてくれた…


私は空翔のことが全く覚えてなかったのに、私を子供の頃からの浅海として見てくれた。

紙神と一緒にいたせいで、人格だって変わっていたのに…

前はどちらかというとおてんばだったけど、紙神をお兄ちゃんだと思っていた頃は、自分はおしとやかな女の子だと思っていた。

高校はお嬢様校だったし、お兄ちゃんの仮面をかぶっていた紙神も、どこか品のある育ちの良さそうな雰囲気があったからだ。

今になれば、それは全て紙神の演技だったとわかるのだが、当日の記憶をすり替えられていた私は、それが当たり前だと思っていたから…


だから空翔が私を見つけて助けに来てくれた時、きっと以前の私のと違いに空翔は驚いたはずだ。

外見は私だけど…性格や口調がまるで違ったはず…



そんな私を見捨てずに、諦めないでいてくれてありがとう…


ありがとう、空翔…









「ハァハァっ…」


薄暗い草むらの中をかきわけながら、紙神から逃げる。

こんなに走ったのは、生まれて初めてかもしれない…
< 163 / 202 >

この作品をシェア

pagetop